023 じつはクルマの自動運転は実現しない!

「全ての運転操作を自動化」したクルマを、国土交通省は「レベル5のクルマ」と呼んでいます。現在、日本国内で販売されている最も進んでいる自動化されたクルマは、ホンダの高級セダン「レジェンド(海外ではアキュラRLXとして販売)」ですが、「レベル3の第1号車」として2021年3月5日に販売を開始しました。テレビやインターネットでは「ついに本格的な自動運転時代の幕開け」といった切り口で大きな話題となりました。

 

しかしその後「レベル4のクルマ」の具体的な販売時期の発表や、民生化に向けた研究報告はありませんし「レベル3」の他車搭載に関しても、ホンダの自動運転開発担当者は「N-BOXがレベル3になるのはいつごろか?」という質問に対し、「10年、いや20年先……」と現時点で将来を予測することは極めて難しいと発言し、そのうえで販売店やユーザーなど市場でのレベル3に対する社会受容性を精査していきたいという姿勢を示しました*1。また、全世界で「レベル4」や「レベル5」のクルマは、これまで一台も販売されていません。

 

そもそも人が自動車を運転する際、目や耳などの情報から周囲の車両、交通標識や自車の走行している場所などを「認知」し、その情報をもとに脳が加減速や進路変更などの判断を下しますが、この「判断」に基づいた命令が全身に伝達され、手や足でステアリングやペダルを操作し、クルマを「制御」しています。自動運転化は、この「認知・判断・制御」といったプロセスをすべてコンピュータが代替し自動化します。各種センサーが目の役割を担い、周囲を走行している車両や歩行者、道路の白線や標識などを検知し、この情報をもとにAIが脳の役割を担って判断し、電気信号で車両に制御命令を下す仕組です。

 

これまで実用化されている自動化されたモビリティは、この「認知・判断・制御」といったプロセスを、全てコンピュータが代替し自動化しているワケではありません。まず障害がない環境をつくり、その環境で全てのモビリティを一貫してコントロールしており、一台ずつの車輌が「認知・判断・制御」といったプロセスを全てコンピュータが代替し自動化しているワケではありません。

 

東京都港区の新橋駅から江東区の豊洲駅までの路線距離14.7km、16駅間を結ぶ「新交通 ゆりかもめ」というモビリティがありますが、車内に運転士や車掌はいなく、自動列車運転装置 (ATO : Automatic Train Operation)による無人自動運転を実施しています。このシステムは、神戸新交通ポートアイランド線(ポートライナー)、Osaka Metro 南港ポートタウン線(ニュートラム)、横浜シーサイドライン金沢シーサイドライン、東京都交通局日暮里・舎人ライナー、舞浜リゾートラインディズニーリゾートライン、ウイングシャトル(関西国際空港内旅客輸送施設)、愛知高速交通東部丘陵線(リニモ)、札幌市営地下鉄東西線(一部の出入庫線のみ)なども同様のシステムを実施していますが、安全に配慮し一部有人で運行しています。

 

なぜこれらのモビリティが自動運転できているか?その理由は「中央指令所(コントロールセンター)」で常に監視しているからです。クルマの自動運転では「常に監視」ができないので、現在のところ「レベル3」が限界になっているわけです。しかしマスコミは「近い将来クルマの自動運転化は実現化する」といった雰囲気の報道を行っています。その理由は、自動車業界がマスコミのビッグクライアントだということも理由のひとつだと、僕は想像しています。2020年の自動車業界の広告費は約1100億円です。これだけのお金が流れ込んでいれば、さすがに不都合なことは報道しないのではないでしょうか?

 

制限なくどのような環境下でも自由自在に走行することが可能な「レベル5のクルマ」は、現状未知の領域となっています。実現時期は、便宜上2030年代を目標に据えているケースが多いですが、仮に2039年に実現すると考えると18年後ですから「近未来」とは呼べない次元ですよね?その一方で、一般的なドローンは法律的には2015年12月から、技術的には2017年1月から自動運転が可能になりましたし、ドローン 大学校の修了生さんは日常的にドローンを自動操縦しています。クルマとドローンの自動運転の可能性を比較すると、なぜ日本政府がドローンで物流や人の移動をしようとしているのか?その理由が見えてきます。

 

*1 引用:桃田 健史著「2025年「自動運転レベル4」に立ちはだかる壁自動運転普及のカギは「社会受容性」にある」2021年3月25日付 東洋経済オンライン