021 テレビで放送された「ドローンを飛ばすには所有者の許可が必要」は間違いです。

2021年1月26日、民間放送局でドローンビジネスに関する番組が放送され、その番組内で以下のような表現がありました。

 

「物流などのビジネス面でなかなか普及が進まない原因の一つが“空中権”の問題。一般的に建物や土地を持っている人は、その上300メートルの空中も所有権を有する。そこにドローンを飛ばすには所有者の許可が必要なのだ。」

 

放送を観たドローン大学校修了生から「この内容は正しいか?」というご質問をいただきましたので、このコラムで回答します。

 

ドローンの飛行に関わる法令は、国土交通省が管轄する航空法や航空法施行規則、警察庁が管轄する小型無人機等飛行禁止法を始めとし、道路交通法、海上交通安全法、港則法、港湾法、河川法、都市公園法 ・・・ と多くありますが、これらの法令に「ドローンを飛ばすには所有者の許可が必要」という特記はありません。それに近い内容が以下「民法207条」にあります。

 

土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ。

 

つまり、土地の所有権は地上何メートル、地下何メートルまでという定はありませんが、国際航空連盟(FAI)によって海抜高度100Km(62.1マイル)に引かれた仮想ライン=カーマン・ライン(Kármán line)と定め、このラインを超えた先が宇宙空間、この高度以下は地球の大気圏と定義されているので、土地の所有権は海抜高度100Kmまで及ぶと解釈するのが妥当だと思います。ですから民法上の解釈では、300m未満の空域でも300m以上の空域でも土地の所有権は存在します。そう考えると「民間航空機は所有地の上を飛行しているが土地の所有権を侵害していないか?」という疑問が出てきます。その回答は「土地の所有権を侵害している」が正解です。しかし「航空法81条」には以下の定があります。

 

航空機は、離陸又は着陸を行う場合を除いて、地上又は水上の人又は物件の安全及び航空機の安全を考慮して国土交通省令で定める高度以下の高度で飛行してはならない。但し、国土交通大臣の許可を受けた場合は、この限りでない。

 

さらに航空法施行規則174条に以下の定めがあります。

 

1)有視界気象条件により飛行する航空機にあっては、飛行中動力装置のみが停止した場合に地上又は水上の人又は物件に危険を及ぼすことなく着陸できる高度及び次の高度のうちいずれか高いもの。


イ)人又は家屋の密集している地域の上空にあっては、当該航空機を中心として水平距離600mの範囲内の最も高い障害物の上端から300mの高度。

ロ)人又は家屋のない地域及び広い水面の上空にあっては、地上又は水上の人又は物件から150m以上の距離を保って飛行することができる高度。

ハ)イ及びロに規定する地域以外の地域の上空にあっては、地表又は水面から150m以上の高度。

 

2)計器飛行方式により飛行する航空機にあっては告示で定める高度。

 

この定めにより、航空機は家屋の上端から300mの高度の上を飛行しているので、土地の所有権を侵害しており、所有権を侵害しないようにする権利もあります。それが「物権的妨害排除請求権と物権的妨害予防請求権」です。物権的妨害排除請求権とは、その侵害の排除を相手方に請求する権利ですが、排除請求できる侵害には不法性が必要で、正当な権限を有する使用者を物権的請求権によって排除することはできません。物権的妨害予防請求権とは、その侵害のおそれがある場合に、そのおそれを取り除くよう請求することができる権利です。難しい表現になりましたが「自分の土地に入りそうなモノや入ったモノを自分の土地から出してください」という権利があるということです。

 

では、民間航空機に対して「物権的妨害排除請求権と物権的妨害予防請求権を主張できるのか?」という疑問が出てきます。その回答は「できる」が正解です。しかし、物権的妨害排除請求権も物権的妨害予防請求権も民法の「請求権」の一部で、民法とは民事実体法なので、提起をして裁判をして違法か適法かが明らかになりますが、民法には罰則規定はなく、 守らなくても警察に捕まることはなく、相手側から損害賠償を請求され、その賠償金額を支払います。つまり、民間航空機に対して物権的妨害排除請求権や物権的妨害予防請求権を主張したところで、損害賠償を請求しないことには起訴しても得られるものはなく、寧ろ高額な弁護士費用等裁判費用が必要になるので、実際の損害を明らかにできず、民間航空機に対して物権的妨害排除請求権や物権的妨害予防請求権を主張できないわけです。ですからドローンを300m未満の空域で飛行したとしても実際の損害を明らかにできなければ罰則を受けません。

 

2021年1月26日のドローンビジネスについての番組内では、“空の道”を作ろうというベンチャー企業の代表が「航空法により高度300m未満の空域を飛行させる場合は地権者の許可が必要」といった表現をされていましたが、民間機は高度300m以上を飛行し問題がないので、所有者の許可が必要と解釈したのではないかと想像しますが、法的根拠はありませんし、航空機は地表から300m以上を飛行しているのではなく「水平距離600mの範囲内の最も高い障害物の上端から300mの高度」を飛行しているので、いずれにせよ間違った解釈をされています。

 

さらに番組内で「空中権」という言葉を多用されていましたが、そもそも空中権とは工作物を所有する目的で上下の限られた空間を排他独占的に使用収益する権利をいい、ここでいう工作物は例えば空中電線などを意味し、航空機やドローンを対象として生まれた権利ではなく、この権利も物権的妨害排除請求権や物権的妨害予防請求権と同じ民法の範囲なので実際の損害を明らかにできなければ罰則を受けません。

 

結論として、2021年1月26日のドローンビジネスについての番組内で「一般的に建物や土地を持っている人は、その上300メートルの空中も所有権を有する。そこにドローンを飛ばすには所有者の許可が必要なのだ。」は間違いですが、テレビで「人の土地の上空をドローンを飛ばしていいよ!」と、放送したら事故や事件が増えるだろうと考えてこのような表現をしたのかも知れませんね?